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May 15, 2005

「遡及的祈祷」

2001年12月,BMJに奇妙な論文が掲載された.タイトルは「血流感染の患者に対する,遠隔的遡及的祈祷の効果:ランダム化比較試験」.最も奇妙なところは「遡及的」にある.病気の帰結が出てしまっている時点において,患者を2群に分けて,片方の群に割り振られた患者のファーストネーム(!)が祈祷師に渡され,祈祷が行われた.つまり,その時点で彼らの運命は決まっている.ただしもちろん祈祷師には知らされていない.さらに驚くべきことに,「祈祷の効果があった」というのがこの論文の結論であった.死亡率には有意差がなかったが,入院日数(P=0.01)と発熱日数(P=0.04)では有意差があった.この実験が正しいとしたら,何を証明したことになるのだろう?神の存在?また,著者らは「この介入は費用効果的で,おそらく副作用がないので,臨床的に実施することを検討すべき」とまで言っている.でも,結果が出てから介入するとは?この研究でもし全員に祈祷が行われたらどうなっていたのだろうか?歴史が変わったのだろうか?2003年12月,またもやBMJに「遡及的祈祷:途方もない仮説?」という擁護論文が載ってしまった.しかし,2004年12月にBMJに発表された「遡及的祈祷:たくさんの歴史,あまり多くない謎,まったくない科学」によって遡及的祈祷の話に決着が付けられた(たぶん).遡及的祈祷の効果を示したとする論文の不備をひとつひとつ明らかにし,そんなメカニズムを基礎付ける科学もないことを示した.しかし,遠隔的祈祷ならまだしも,遡及的祈祷とは・・・よくもそんなランダム化比較試験を思いついたなあ.宗教的な信念や精神性に統計解析をもちこむっていうのはどうなんだろう?2001年の論文では祈祷の効果(神の存在?)を示すために統計解析を用いたんだけど,逆にパンドラの箱を開いてしまったのではないだろうか.おみくじとか絵馬なんかの効果を厳密に解析することになったら?と想像してみよう.

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