神経経済学(Neuroeconomics)
行動経済学のさらに先に神経経済学がある.いまのところ,経済心理学で指摘されてきた様々な「非合理性」が脳の活動によって「説明」されていくというスタイルのものが多い.Science誌の2004年10月15日号に載った論文 「別々の神経系が,今すぐと将来の金銭的報酬の価値付けを行っている」では,行動経済学で提唱されている「準双曲割引モデル」に,脳科学的基礎付けが与えられた.タイトルにある「別々の神経系」とは,新しい脳であり,理性をつかさどる前頭前野と,古い脳であり,動物的本能や衝動的行動をつかさどる辺縁系のことである.準双曲割引(quasi-hyperbolic discounting)モデルでは,「今すぐ」という選択に対して,0~1の間の係数がかかる(=近視眼的な選択を高く評価する).それ以降では,この係数が,辺縁系の活動と関連していることが示された. 茂木健一郎氏が『脳と創造性』で神経経済学に触れているし,「サイゾー」6月号のコラムでは山形浩生氏が「やった!割引率の生物学的基礎をつくりあげて、人の迷いと後悔を説明した、すごくおもしろい本を訳すことになった!」と書いている.これは多分,Paul W. Glimcherの"Decisions, Uncertainty, and the Brain : The Science of Neuroeconomics"(2004年)だろう.Glimcher氏は先に紹介した論文と同じ号に,「神経系在学:脳と決定の一致」というレビュー論文を書いている.もっと一般向けなら,Terry Burnham著"Mean Markets and Lizard Brains: How to Profit from the New Science of Irrationality"(2005)もある.これは,衝動的行動をつかさどる辺縁系を「とかげ脳(lizard brain)」と呼び,神経経済学の成果を,実際の投資行動などに応用する方法を提案している.ただし,内容は米国人向けに書かれているので,エッセンスを盗んで日本人向けに書き直したら売れそうだ.